森喜酒造場【三重県】

森喜酒造場るみ子の酒
 平成元年、蔵元である父親の病を機に、薬剤師であった娘の 『るみ子』さんが蔵に入り、稼業を継ぐ決心をする。ご主人と共に、猛勉強をしながら、酒造りにまい進するも、酒造りの難しさ、経営の厳しさから、一時廃業も考えた。そんな折、知人から勧められた漫画『夏子の酒』と出会い、著者『尾瀬あきら』氏に、手紙を書く。余りにも主人公と似た環境の酒蔵に感動した尾瀬あきら氏は、無償でラベルをデザインし、『るみ子の酒』が誕生。純米造りの指導や手伝いに、神亀酒造、杜の蔵などの銘醸蔵が協力、力強い完全発酵の純米酒は、首都圏でも話題の名酒と呼ばれるようになりました。
 こうした『るみ子の酒』のエピソードはご存知の方も、多いと思います。そうそうたる銘酒を取り揃えた居酒屋で、一通り純米酒の燗酒を飲んだ後、最後の一杯にもう一度飲んでみたい銘柄を選ぶ際、森喜酒造のお酒を選んだ事が二度ほど続いて、何故か印象に残る香味でした。いつか蔵を尋ねてみたいと思って居りましたが、杜の蔵さんの紹介もあって6月の半ば梅雨の中休みの暑い日に、蔵を訪問させていただくこととなりました。
森喜酒造森喜英樹さん
 伊賀忍者の郷、又俳人芭蕉の生誕の地、三重県上野市。蔵は伊賀盆地の中ほど、緑の田んぼが広がる中に、いかにも酒蔵らしい風情を見せておりました。
 るみ子さんのご主人英樹さんに、蔵内を案内していただきました。200石、全量純米酒、麹蓋による麹造り、麹室にはいくつもの空の麹蓋が積んでありました。力強く、ハリのある若々しい香味は、この辺りに起因するのかと思いました。
蔵から少し離れたところに蔵元自ら栽培されている山田錦の田んぼがありました。無農薬栽培なので、雑草取りが大変だ。親しくされている近隣の農家も山田錦を無農薬栽培してくれて、これらが熟成を意識した純米の『はなぶさ』の銘柄に使われている。森喜酒造麹室
 酵母は、協会6号、7号、9号を使い分け、特に6号は、立ち香控えめながら含めば口中に広がる香りが美しく、冷やでも燗でも良し。9号酵母の純米は、吟味が豊かで華やか、冷や向きと思います。7号は、燗をすると、落ち着いた酸の深みが出て味がふくらむ、燗向きのお酒になる様だ。
どのお酒も、日本酒度が+5~+7と完全発酵の辛口系。実に力強い。新酒では、堅く渋くという表現がぴったりとくる。一年熟成させた『はなぶさ』でも、まだ味のり半ばという強さを感じてしまいます。しかし、その分熟成系に慣れた飲み手には、新鮮で、直球勝負の生真面目な造りが伝わってくるかと思います。

コメントは受け付けていません。